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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)7200号 判決 1989年1月18日

主文

原告の各請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の申立

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告に対し、別紙物件目録記載一の建物(以下「本件一の建物」という。)の明渡し(無条件の、然らずとすれば原告から被告中村嘉代子への金一〇〇万円の支払いと引換えの)及び本件訴状送達の日の翌日から右建物明渡済まで日額金六五〇円の割合による金員の支払いをせよ。

2  被告中村嘉代子は、原告に対し、同目録記載二の建物(以下「本件二の建物」という。)の収去及びその敷地九・九三平方メートルの土地の明渡し(いずれも前同)並びに本件訴状送達の日の翌日から右土地明渡済まで日額金二〇円の割合による金員の支払いをせよ。

3  被告大久保晴雄は、原告に対し、本件二の建物の退去及びその敷地九・九三平方メートルの土地の明渡し(いずれも前同)並びに本件訴状送達の日の翌日から右土地明渡済まで日額金二〇円の割合による金員の支払いをせよ。

4  訴訟費用は、被告らの負担とする。

5  1ないし3につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告中村関係

(一) 訴外高井捨松は、その所有する本件一の建物を昭和一〇年ころ、被告中村に賃貸したが、同訴外人が同二〇年八月九日死亡したことにより、原告は、同訴外人の同被告に対する右建物賃貸人の地位を相続により承継した。

(二) 別紙物件目録記載四ないし六の各土地(以下「本件四ないし六の土地」という。)は、原告の所有地であるが、原告は、同二〇年ころ右土地のうち本件一の建物の敷地である本件四の土地の庭先に当たる部分である本件五及び六の土地の一部を被告中村が同目録記載二の物置(以下「本件二の物置」という。)を建てるために無償で貸与し、同被告との間で、同被告が原告に対し本件一の建物を明渡す際に本件二の物置を撤去してその敷地を明渡すことを約し、同被告は、右土地上に本件二の物置を建築してその所有者となった。

(三) 本件一の建物は、昭和五年ころ建築された木造家屋であり、すでに屋根板、梁、大部分の柱の根元が朽ち果て、ひどい雨もりがするほか、台風や地震などの際に倒壊する可能性が極めて高いという大変危険な状態にあり、本件訴状送達前にすでに朽廃し、原告と被告中村との間の右建物賃貸借契約は、その段階で終了した。

(四) 仮に、本件一の建物の朽廃が認められないとしても、被告中村には、次の事由があり、右事由は、同被告が原告との間の本件一の建物の賃貸借の信頼関係を破壊し、右賃貸借の継続を不可能とするものであるから、原告は、同被告に対し本件訴状で右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

(1) 別紙物件目録記載七の建物(以下「本件七の建物」という。)は、本件四の土地上にあり、原告の長男が所有し、原告の住居となっており、その南側に隣接して本件一の建物があるところ、原告は、かねてから右建物をその子供たちが成人して独立する際にその住居として使用させたいと考えて、被告中村に右建物の明渡しを要請し、昭和三〇年ころ同被告との間で、当時小学生であった原告の次女が成年に達し次第、同被告が原告に右建物を明渡すことに合意し、そのため、右建物の賃料を低額(昭和五二年七月以降年額金三万円、同五四年七月以降同金三万五〇〇〇円、同五五年七月以降同金四万円、同六一年七月以降同金二三万四〇〇〇円)にしてきた。原告の次女は、すでに成人に達して、一三歳と九歳の二女の母親となり、夫の勤務先の会社の社宅住いをしているが、子供の教育のため定住家屋として、本件一の建物を必要としている。

(2) 被告中村は、同三二年、原告に対して一方的に右明渡しの合意を破棄する旨通知し、近隣の住民に対して、原告が所有する本件一の建物及びその敷地を乗取ってやるのだ、と折にふれて広言してきた。同被告が右のような言動に出た理由は、原告の妻が茨木市から別紙物件目録記載三の土地(以下「本件三の土地」という。)の払下げを受けたことをもって、同被告の払下げを受ける権利を侵害したので、その仕返しをすると言うのであるが、同被告のいう原告の妻が同被告の権利を侵害したことは、事実無根である。

(3) 原告は、同六一年六月に本件三の土地上の老朽化したアパートを取壊し、同地上に新建物を建築しようとしたところ、同被告は、同土地を通路として使用できる権利がないのに、原告に対し、同土地を本件一の建物から公道に出るための道路として使用するから、その支障となる建築工事をしてはならない旨を文書で申入れて、原告の権利行使を妨害した。

(4) 被告中村は、本件二の物置の敷地が原告の所有地であることを否認している。

(五) 仮に右(四)の各事由が被告中村の原告に対する背信行為として本件一の建物の賃貸借契約の解除事由にならないとしても、右の各事由に加え、原告は同被告に対し金一〇〇万円の立退料を支払う用意があるから、これらのことにより、原告は、同被告に右賃貸借契約の解約申入れにつき正当事由があるので、本件訴状で右契約の解約を申入れる。

(六) 本件訴状送達日の翌日以降の本件一の建物の賃料相当額は、月額金一万九五〇〇円(日額金六五〇円)、本件二の物置の敷地のそれは、月額金二〇〇円(日額金六円六六銭)である。

(七) よって、原告は、被告中村に対し、賃貸契約の終了に基づき、本件一の建物の明渡し並びに本件二の物置の収去及びその敷地の明渡し(その無条件請求が理由のないときは金一〇〇万円の受領と引換えに)を求めるとともに右明渡義務の不履行による損害賠償として、本件訴状送達の日の翌日から右建物ないし敷地の明渡済まで、右建物については日額金六五〇円の、右敷地については同金六円六六銭の各賃料相当額の損害金の支払いを求める。

2  被告大久保関係

(一) 本件一の建物並びに本件五及び六の各土地は、いずれも原告所有物件であり、本件二の物置は、本件五及び六の各土地上に建てられている。

(二) 被告大久保は、昭和四〇年ころから本件一の建物に居住し、本件二の物置を使用してその敷地を占有している。

(三) よって、原告は、同被告に対し、本件一の建物並びに本件五及び六の各土地の所有権に基づき、右建物及び各土地の本件二の建物の敷地部分の明渡しを求めるとともに、右明渡不履行の間の損害賠償として、本件訴状送達の日の翌日から右建物ないし敷地の明渡済まで、右建物については日額金六五〇万円の、右敷地については同金六円六六銭の各賃料相当額の損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告中村関係

(一) 請求原因1の(一)の事実は、認める。

(二) 同(二)の事実のうち、本件四ないし六の土地が原告所有地であること、被告中村が本件二の物置を建築してその所有者となったことは認めるが、その余の事実は、否認する。

(三) 同(三)の事実及び主張は、争う。

(四) 同(四)の事実のうち、冒頭の主張は、争う。(1)の事実のうち本件一の建物が本件七の建物の南側に隣接していること、本件一の建物の賃料が原告主張どおりの額であったことは、認めるが、原告主張の明渡しの合意の点は、否認し、その余の事実は、知らない。(2)の事実は、否認する。(3)の事実のうち、原告がその主張するアパートを取壊したことは、認めるが、その余の事実は、否認する。(4)の事実は認める。

(五) 同(五)の主張は、争う。

(六) 同(六)の主張は、争う。

2  被告大久保関係

(一) 請求原因2の(一)の事実のうち、本件二の物置の敷地が本件五及び六の土地の一部であることは、否認し、その余の事実は、認める。

(二) 同(二)の事実のうち、被告大久保が本件一の建物に居住していることは、認めるが、その余の事実は、否認する。

三  被告大久保の抗弁

被告中村は、昭和一八年ころ本件一の建物を訴外高井捨松から賃借し、同二〇年八月九日同訴外人の死亡により原告が同被告に対する右建物賃貸人の地位を相続した。被告大久保は、同二八年に同中村から右建物を賃借(下宿)したものである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実のうち、被告中村及び同大久保の本件一の建物賃借の日時の点は、否認するが、その余の事実は、認める。

五  再抗弁

被告中村に対する請求原因1の(二)ないし(五)の事実と同じ。

六  再抗弁に対する認否

被告中村の再抗弁に対する認否と同じ。

第三  証拠関係(省略)

別紙

物件目録

一 茨木市上中条二丁目一四番地

家屋番号 上中条一一番

木造瓦葺平家建居宅

床面積 四〇・八二平方メートル(現況五七・六三平方メートル)

二 同所一七番地、一八番地七

家屋番号 一八番七

木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建物置

床面積 九・九三平方メートル

三 同所二二番五

宅地 二二八・二九平方メートル

四 同所一四番

宅地 二三八・〇一平方メートル

五 同所一七番

宅地 四〇・二九平方メートル

六 同所一八番七

宅地 五五・三三平方メートル

七 同所一四番

木造瓦葺二階建居宅

床面積 一階 七二・九〇平方メートル

二階 七一・七八平方メートル

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